電撃文庫

○○○○ ドラマCD発売記念特別短編「立華ズ・ブートキャンプ」後編

「ツナ缶って水煮と油煮で全然カロリー違うのね。で、立華ちゃんが好きなのは油煮なんだけどこれが百グラムでなんと三百キロカロリー。一缶あたりの内容量を百八十グラムって考えると五百キロカロリー強。それを三缶なんて食べたら」
「!」
 せ、千五百キロカロリー……!
 恐ろしい栄養価だった。
 枝豆や刺身で数十キロ節約したところで焼け石に水、大火の前の柄杓だった。
「で、でも室見さんだってツナ缶食べまくってますよ? 僕よりもっと……一日に十缶、いや下手すると二十缶くらい」
「うん、だからね立華ちゃんは太らないの」
「……はい?」
「そういう体質、基礎代謝がよすぎるのかも。どれだけ食べてもあの体型のまま」
 そ、そんな馬鹿な。
 ツナ缶二十缶って今の話だと一万キロカロリーだぞ? 体質や代謝でどうこうできる次元じゃないだろ。
 だがカモメは生真面目な表情を崩さなかった。わずかに身を乗り出し告げてくる。
「昔ね、社長とSE部みんなで焼き肉食べに行ったことがあるの。丁度立華ちゃん、DC作業あけで朝から何も食べてないって言うから料理を勧めまくったのね。肉だけで四、五人前はいったかな? 野菜も含めるともう空き皿のタワー状態。でまぁ夜も遅いし他の人達べろんべろんに酔っ払ってたから途中で抜け出して家に送ってあげたんだけど……あの子、次の朝なんて言ったと思う?」
「……さぁ」
「痩せたって」
 ………。
 耳を疑った。
 何、なんだって?
「体脂肪計乗ったら二、三キロ体重が落ちてたんだって。『やっぱり不規則な生活はだめねぇ、気をつけなくっちゃ』って言われちゃった」
「え、え、いや? あの、ちょっと待って下さい。室見さん、前の日に食べまくったんですよね?」
 それこそ四、五人前以上。カモメがこくりとうなずく。
「それで痩せる? どういうことですか、なんか話が繋がってないように思うんですけど」
「だから」
 カモメは辛抱強く説明した。
「普段はもっと食べてるってことでしょ? その日は作業と食事会が重なっちゃったからいつもの食べ方できなかっただけで」
 今度こそ意識が空白化した。衝撃的な事実に思考が追いついていかない。日に一万キロカロリーを摂取し、五人分の食事をなんなく平らげ、それでも全く太らない体質?
 に、人間じゃねぇえええ!
 絶句してたたずむ。普段から常人離れした上司だが今回は超弩級だった。てかもう生き物の摂理も踏み外してるだろ。妖怪、物の怪の領域だった。
「というわけで」とカモメが言った。
「あの子、自分じゃ色々ダイエットに気を遣ってるつもりっぽいけど、やってもやらなくても結果同じだから。真似しちゃだめ。言われるまま高カロリーのツナ缶とか食べ続けてたら大変なことになるよ?」
「………」
「あ、電話鳴ってる。そういうことだから立華ちゃんのこと責めないであげてね。あとダイエットに王道とかないから」
 ぐさりと突き刺さる一言を残しカモメは去っていった。
 あとにはなんとも言えない静寂が訪れる。自席の卓上で室見のダイエットメモが空調にあおられ揺れていた。
 ……飲みに行く回数控えるか。
 ぽつりと独りごちる。
 つぶやきは拡散し宙へと吸い込まれていった。

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