電撃文庫

○○○○ ドラマCD発売記念特別短編「立華ズ・ブートキャンプ」前編

「で? 私の腹に贅肉がたまってるんじゃないかって?」
「平たく言うと」
 室見の鼻が鳴る。彼女は胸を反らしてみせた。
「それでどうだったの? あんたの推論通りブヨブヨのデブデブだった?」
「いえ……」
 むしろほとんどつまめなかった。皮一枚をちょっとつねったくらいの感触。完璧な造形美は服の下でも健在ということか。感心しつつ訊ねる。
「室見さんは……何か運動でもしてるんですか? ジムとかヨガとか」
「してないわよ」
「じゃあエステに通ってるとか」
「ううん」
 何も対策せず今の体型を保っている? マジで? 呆然とする工兵の前で室見は腕組みした。
「あんたねぇ、普通に考えてみなさいよ。これだけ朝から晩まで激務に追われて太るわけないでしょ。むしろやつれる感じ? 寝不足であちこち走り回らされてるんだから」
「でも」
 事実太ってるじゃないか自分は。
 不満気な様子を見て取ったのだろう。室見は探るような目つきになった。
「ていうかあんた普段何食べてるの? 昼はともかく朝夕に馬鹿食いしてんじゃない?」
「そんな……大して食べてないですよ」
「同じ量動いてあんただけ太ってるんだから、差があるとしたらそこでしょ。いいから何食べたか思い出してみなさい。まず先週の月曜日」
 はぁと間の抜けた声を上げる。記憶を探り一週間前、えーと朝は抜いて夜は。
「藤崎さんと飲みに行きましたね」
「火曜日は?」
「お客さんの接待」
「水曜日」
「梢さ……OS部と懇親会やって」
「木曜日」
「橋本課長と池袋で飲んでました」
 ぐーで打たれた。
 しかも思いっきり顔の真ん中を。
「痛い!? 痛い、何するんですか!」
 額を押え抗議すると室見は犬歯を剥き出しにした。
「何するんですかじゃないわよ! そんだけ飲んでたら太るに決まってるでしょ! てかあんた、先週やたら直帰が多いと思ったら飲みに行ってたの!? ふざけんじゃないわよ!」
「や、や、丁度色々重なっちゃったんですよ先週は、たまたま。いつもは違います」
「はん? じゃあ先々週の月曜日は、夜何食べたの?」
「自宅近くの居酒屋で一人酒を」
 アッパーカット。
 轟沈する工兵の前で室見は嘆息した。
「まったく呆れた健康管理ね。いい社会人が何やってるのよ、学生じゃあるまいし」
「そ、そうは言いますけどね室見さん」
 おずおずと異議を唱える。頭と顎と頬がずきずき痛んでいた。これ以上刺激して殴られるわけにはいかない。わずかに距離を取りつつ続けた。
「飲むって言ってもほんの少しですよ。ビール中ジョッキで四……五杯程度。あとお酒の分、食べ物は控えめにしてますし」
 だが室見はいよいよ見下げ果てた視線になった。
「あんたねぇ、ビール一杯がどんだけカロリーあるか理解してる?」
「へ? カロリーですか」
 そういえばあまり意識したことがなかった。ジュースみたいに糖分が含まれているわけでなし、大したことないだろうと思っていたが。
 室見の目が急角度で吊り上がる。
「二百十キロカロリー! ごはん一杯分よ。五杯飲んだら千キロカロリー突破、成人が一日に必要なカロリーのほぼ半分!」
「え、え? そんなに高いんですか!?」
 たかだか液体飲んだくらいで? 千キロカロリー? マジで?
 愕然とする。まさかそんな高エネルギー源を日常的に摂取していたとは。五日で五千キロカロリー? 驚愕の数値だった。
「あとおつまみも。シーザーサラダが一人分二百キロカロリー、ソーセージ盛り合わせが三百五十キロカロリー、出し巻き卵一切れで百三十キロカロリー! あんた、ご飯ものガッツリ食べてないから平気とか思ってない? 酒のあてって太るのよ。塩分も多いし」
 う……。

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